たたき土技術の工業化に関する基礎的研究―製品の意匠展開を含めて―
酒井 裕希
現代の産業・経済社会において、急激な工業化や都市化の進展などにより引き起こされた環境破壊がわれわれの生活に深刻な影響を与え始めている。改めて、われわれは人間と地球環境との関係を問い直さればならない時点にあるといえるだろう。ところで、日本の伝統的左官技法の1つに”たたき”あるいは”三和土”と呼ばれていた技法がある。コンクリート技術が明治時代の末に導入されるまでの土木技術であり、特に明治時代には中部地方を中心に防波堤護岸・堰提などの土木構造物で大きな役割を果たしていた。種土と石灰を主な原材料として配合・固化したもので現在でも生きている遺構があるほど強固な構造物であった。この”たたき”は自然土そのものであるので、その特性は人間と環境に調和したものであり、1 現在の技術の視点から見直してみること、2 暮らしに機能できる製品化の可能性を確かめてみることを、この研究の目的としている。研究の方法は、たたき有用・有効性を確認するため、歴史的遺構の調査を行い、工業化にあたっての方向性を検討する。次に、宮城県内の土の分布調査し、たたきに用いる種土を入手する。その種土を用いて、歴史的事例における配合例を参考に固化材と配合し、ミニブロックを試作する。さまざまな配合で展開・確認されたミニブロックのなかから、たたきの工業化に適当な配合を抽出し、実機で量産試作および機能評価する。ブロック製品への工業化を背景に、その他製品展開の可能性を探る。
研究内容:
1)歴史的遺構の調査
2)宮城県内の種土の分布
3)種土と固化材の配合
4)ブロック製品の工業化プロセス
5)ブロック製品の評価
6)工業化による製品化の可能性
1)歴史的遺構の調査
調査は、特に遺構が多く見られる東海地方で、たたきの応用である”人造石工法”を発明した服部長七による構造物を中心に行った。
2)宮城県内の種土の分布
たたきの種土として、珪酸分に三む”まさ土”と呼ばれる花崗岩風化土、火山灰土壌の表土(腐植土)である黒土、石炭灰火力発電所から産業廃棄物として排出されるフライアッシュ(平均粒径8~55μの石炭灰)を使用した。まさ土は特に伊具郡を中心に仙南地域に広く分布し、黒土は奥羽山麓全体に分布している。本研究では、まさ土を柴田群川崎町、黒土を刈田群蔵王町から採取し、フライアッシュは原町火力発電所から入手した。
3)種土と同化材の配合
たたき土ブロックの配合を検討するためにあたり、ミニブロック板(100x10O×10~20mm)にて試作を行った。固化材は消石灰(工業用特号)ボルトランドセメント・マグネシアセメント(M90+M9C|2)を使用し、ソイルセメント用ポリマー塩化マグネシウム(にがり)、硫酸カリウムアルミニウム(焼き明箸)などを消石灰に対し10~20%添加した。水は配合土が湿潤状態」になる程度。試作方法は 1 計量した種土と固化材と水を配合 2 配合土を木型に入れ2tのブレスを加える 3 即脱型し1日~2日の気乾養生 4 さらに1~2日炉乾燥させる。ミニブロック板での試作を数十点展開したうえで、実機による量産試作の配合を決定した。
4)ブロック製品の工業化プロセス
量産試作では、タッビングブレス成形機を用いてたたき土平板ブロックを試作する。1 ホッパーに種土を入れる。2 計量した種土と消石灰を混合する。3 配合土を型に入れる。4 配合土をタッピングブレスする。5 収納庫へ運び、養生する。材料を型に入れてブレス、搬送するまでには10秒程度で、-時間あたり300~400枚のたたき土平板を成形することが可能である。
5)ブロック製品の評価
多面的な機能を持ったたき土平板ブロックの評価指標も1つとして弾力性試験を行った。試験は、ゴルフボールまたはスチールボール(1インチ)を1mの高さから自然落下させたときの反発高さより、GB反発係数(衝動吸収性)及びSB反発係数(弾性反発性)を求める方法をとった。これは両係数ともに値が小さいほど歩行者の足への負担が少ないことを示す。成形後14日目の評価において、GB値は黒土平板、フライアッシュ平板、まさ土平板と順に高くなることが確認できた。しかし、SB係数にはほとんど差がなかった。さらに、コンクリート平板やインターロッキングブロック、レンガなどの一般的な舗装材と比較しても両係数はたたき土平板ブロックが最も低く、歩行者にやさしい舗装材であることが確認できた。
6)工業化による製品化の可能性
たたき土は、材料配合と圧縮方法により、多様な機能展開による製品群の可能性が期待できる。フィジカルスペックとして、保水吸収性・調湿性.環境性・無白華性・耐候性・すべり抵抗性・緑化促進性・吸音性、1機能として評価した衝撃吸収性・弾性反発性などの機能があり、メンタルスペックとして、素朴な表情柔らかい感触・経年変化などが挙げられる。製品展開例として、床暖ブロック、屋上緑化ブロック、壁面ブロック、たたき土中央分離帯、たたき土の鉢、たたき土つち止め、煉瓦風たたき土ブロックなどの多様な展開が考えられる。
一般的な舗装材に比べて硬化速度が遅く、養生機関を十分に必要とすることが問題として残されている。製造工程に炭酸ガスを吸着させる工程を組み込むなどによる硬化促進の工夫が求められる。また今後、多くの機能のデータ化と使用環境や用途ごとに配合を設定し、さまざまな用途に応じた開発研究を展開していきたい。