肢体不自由のための手の作業訓練具のデザインに関する研究
鈴木 豊
障害のある子どもの全人間的な社会参加を目指す療育(子どものリハビリ)において、遊び要素を訓練に導入するための手法の構築が求められている。また、子どもの成長に伴う症状や身体機能の変化により、リハビリテーションで使用される訓練用具に求められる寸法や形態も変化することから、その改良の際に生じる様々な問題を解決するための生産手法の検討も求められている。
そこで本研究は、上肢機能障害を持つ子どもの手作業の訓練に着目し、それらの訓練用具に求められる機能・形態・素材の探求を通して、楽しみながら積極的に訓練に向かうことのできる作業訓練具のデザイン開発と、そのための生産手法を考察することを目的としている。
研究の方法
子どもと訓練遊具の関係を中心に図1に示すような各条件に沿って、療育において使用される訓練用具に関して、遊びの要素のある多様な訓練用具の制作・試用評価を通して、子どものヨIl練用具に必要とされるデザイン要素を検討する。
訓練用具の素材の触覚のイメージ調査
訓練用具に用いられる各素材の触覚イメージを中学生33名を対象に調査し、それらの利用方法などについて考察した。
木材は、身体に触れるところへの配置が望ましいが、雑菌の処理に関する配慮が必要なことを示した。低反発樹脂は、湿気を嫌う子どもの訓練用具の表面処理などに有効であるが、耐久性の低さに留意すべきである事を示した。ゴムは、身体に直接触れる部位への使用時のコーティング処理などの配慮と、緩衝材としての使用が望ましいことを示した。
描画・食事作業のための訓練用具の探求―肢体不自由児のためのペンツール
脳性麻痒児にとっては、木材の手触りが好まれる傾向にあること、使用目的が一定にならないことが推測された。
食事動作と筆記動作における形態
この試作評価においては、大きな動作と細かな動作にそれぞれ適した形が存在することが推測された。三角形を基本とした適度な引っ掛かりのある形態が粗大運動に向くこと、落花生を基本とした形態は微細運動に適していることが推測できた。
個別対応の訓練用具のデザインと観察
脳性麻痒の単一症例(SY君)を対象に種々の試用評価を行った。
粗大運動のための形態の展開
数種類の断面形状と上面形状の組み合わせにより形態モデルを展開し、SY君をはじめとする脳性麻痒児の円滑な粗大運動の獲得に寄与する形態を持った訓練用具のデザインの方向性を示した。また、この手法に医学的かつ心理的な検討を加えることで、対応できる症状が広がる可能性を示した。
訓練遊具のデザイン展開
SY君の投げる、描くなどといった各種の粗大運動を基礎とした動作に向けた訓練遊具の試用状況から、手の作業訓練遊具のデザインにおいては、対象とする子どもの身体機能に加えて心理的な側面を十分に考慮した上で、状況に即応した訓練用具のデザインを行う機会を増やす必要性が示された。作業療法士による悪意的な作業には興味がないことと、訓練による子どものストレスの軽減を図るために、複数の訓練用具を用いることの重要性を明らかにした。
今後の訓練用具の生産手法の在り方
訓練用具などを生産するための独立した部門のセンター内への設置や、訓練用具の構成とブログラムヘの応用などを提案し、子どもの成長段階に適した迅速な道具の提供を行うことができることなどを示した。
今後の課題
人件費を主とする個別対応開発に係る費用を如故に低く抑え、幅広い生産手法に対応できるようなにするかが今後の課題であろう。