活動のパターン解析からデザインパターンを生み出す方法の研究―町内会、家族というコミュニティ一の活動を対象として―
敦賀 雄大
1. 背景と目的
高齢化の進む今日において、孤独で社会とのつながりの弱い高齢者も多くなってきている。セキュリティーの問題などから近所同士のコミュニケーションの希薄化が進み、住民それぞれが孤立しているのが大きな問題となっている。したがって.他人とのコミュニケーションを円滑にできるようにするための取り組みが必要だと考えられる。
本研究で対象とする”コミュニティーの活動”は曖昧で捉えることが難しい。したがって、適切な道具をデザインするためにコミュニティーの活動を的確に捉え、ユ一ザーの要求を抽出し、デザインヘ反映させられるような新しいデザインプロセスの開発が必要である。
本研究では、実際のコミュニティーの活動を捉え、ユーザーの要求を道具(活動を支援する)のデザインへ反映できるデザインプロセスの開発、また、共有、蓄積でき、他の開発でも効率的で質の高い開発が行えるデザインパターンづくりを目的とする。
2. 研究方法
2.1. Co-Design
Co-Designとはユーザー(地域)と共にデザイン活動を行うことで、ユーザーの能力(経験)や真の要求を知り、それを基にモノをつくる、というデザイン手法である。
2.2. 活動のパターンをベースとしたデザインプロセスの開発
ビジネスの場面で行われている作業や仕事から開発要求を抽出し、実際のデザインへ反映させる、という開発プロセスがソフトウェア工学の分野では一般的に知られている。
ソフトウェア工学の分野では一般的に知られている手法を参考にデザインプロセスの開発を行った。
2.3. 記述方法の開発
コミュニティーの活動を捉え、ユーザーの真の要求を抽出するために活動の記述方法を調査し、活動の記述方法を開発する。
2.4. 活動の調査、分析
仙台市青葉区滝道町内会を対象に、町内会というコミュニティーの活動と家族というコミュニティーの活動を調査・分析した。
2.5. 活動のパターンをベースとしたデザイン手法の有効性の確認
活動のパターンをベースとしたデザインプロセスの有効性を確認するために検証を行い、活動のパターンをベースとしたデザインプロセスの有効性を確認する。
2.6. 異なる活動の比較
異なる活動でも共通する活動が存在することを確認するため、家族というコミュニティーでの活動の分析から得られた活動のパターンと、町内会というコミュニティーの活動分析から得られた活動パターンの比較を行う。
3. 開発したデザイン手法
3.1. Activity pattern-Based Designのプロセス
Activity pattern-Based Design(以下APBD)のデザインプロセスは以下の4段階のプロセスで行う(図3-1)。
①現状の活動を観察記述し把握する(As Is Realityを記述)
・実際に行われている活動を把握するため、APBDの記述方法を用い、活動全体を抜け漏れなく記述する。
②現状の活動のモデル化(活動の抽象化)
・最初に記述した現状の活動をモデル化することで、活動の要素を抽出しやすくする。
・モデリングをすることで、他の開発で利用するときに適用しやすくなる。
・現状の活動をモデル化するときに、”あるべき姿のモデルをデザインする”ことを頭において活動を分祈することが重要である(図3-1「導出」)。
③活動のモデルをあるべき姿のモデルへと変換する
・モデル化した活動のパターンをあるべき姿のモデルヘ変換する。
ここでは2っの重要なポイントがある
1.あるべき姿のモデルは、あるべき姿のもののデザインされる目的を視点にして変換をする。
2.現状の活動で行われている活動の要素をモデルに活かす。
④具体的なデザイン(あるべき姿のモデルからあるべき姿へ具体化する)
ここではあるべき姿のモデルを実際に使われる現場にあわせデザインヘ落とし込む。
以下にポイントをボす。
1.As Is Modelで抽出された重要な活動の要素を実際の活動へ組み込む。
2.実際の現揚で使ってもらうためAs Is Realityで行われている活動に即した道具にする。
3.あるべき姿のモノは蓋然的に存在する要因から導き出される。
3.2. APBDの記述方法
3.2.1. 活動を捉える5つの視点と記述方法
・関係モデル:人と物の関係やその関係の中で生じる気持ちを表す(図3-2)。
・手順モデル:ユーザーが行う活動、行為の手順を表したもの。目的を明記する(図3-3参照)
・文化モデル:活動が行われている環境における人々の価値観、気持ちを表す(図3-4)。
・物理環境モデル:活動する場を表した図。物理的な環境がどのように活動に影響を与えているかを表す(図3-5)。
・人工物モデル:ユーザーが活動を行うために作成、利用するものすべて(図3-6)。
3.2.2. ユーザーの活動を記述するプロセス
活動を分祈し、デザインバ夕一ン化するまでには大きく分けて2つのプロセスがある。
①活動の調査
・活動の参加、調査、取材を行う。
②活動の記述
・活動の参加、調査、取材で得られたことを最初から最後まで手順モデルで記述する。
③手順モデルの整理
・手順モデルを構成しているそれぞれのブロックが独立した目的を持ったものが”行為”として記述されているかをチェックする。
・目的が複数ある場合は独立した目的を持った”行為”のレベルにまで分解する。
・行為よりもより単純な作業レべルで記述されている場合はその前後の行為どちらに含まれるかを見極め、行為を構成する作業として組み込む。
④活動のレベル分け
・行為の中で同じ目的を持った行為同士を下位活動レベルとして括る。その下位活動レべルを基準としてそれをさらに括る活動として上位活動、下位活動を構成するものとして行為というように活動をレべル分けすることができる。
⑤共通する活動の抽出
・下位活動、行為に注目し、共通していると思われる活動と、異なる活動を比較することで共通する活動のパターンを抽出する(図3-7)。
3.2.3. 活動のレべル
活動を捉えやすくするために活動を以下のレべルで分ける。
①上位活動
活動全体を括る上位目的、複数の下位目的に対する複数の下位活動を持ったひとつの活動である。
②下位活動
上位活動より1段階下位のレべルの活動で、明確な活動の目的(下位目的)を持ち、複数の作業から構成される活動である。
③行為(活動の要素)
独立した目的を持ち、それを遂行するための方法は複数存在する。下位活動を構成する単位で独立した目的を持つ。
④作業
具体的な結果を生み出すための仕事である。
3.2.3.1. 活動のレべルと共通性
上位活動のレべルでは関わっている人が多く、それぞれの目的も様々なため、上位活動の目的も複数存在する。しかし、下位活動、行為のレべルだと活動の目的がある程度はっきりするため、共通する部分が多く存在する。
4. 実際の活動分析から得られた活動パターン
4.1. 町内会というコミュニティーの活動分析から得られた活動パターン
町内会というコミュニティーでの活動の調査、分析から、いくつかの活動パターンが抽出された。そのうちのひとつを以下に例示する。
・情報が公開・共有される範囲によって、発信する情報内容が変わる(図4-1)。
そして、″情報に公開範囲を設ける”というデザインパターンへ変換し、デザイン仕様として町内会の活動を支援するwebサイト「たきみち生き活き広場お知らせぺージ」ヘ実装させた。
4.1.1. 検証実験
「たきみち生き活き広場お知らせぺ一ジ」を用いて、普段からお知らせ資料を作成している方3名を対象に検証を行った。
4.1.2. 検証結果と考察
検証実験からAPBDの有効性、機能に関して良い反応が得られた。
a)編集を自分たちで出来ると実感できた。自分でできるので勉強しようという意欲が湧いたようである。
b)公開範囲を2段階に設定したことに対して、好反応が得られた。
c)webサイトでの記事作成の作成方法が、回覧板での資料を作成する行為と適合している
d)webサイトでの記事にも会長や部長の審査が必要なことが好評であった。
4.2. 家族というコミュニティーの活動分析から得られた活動パターン
家族というコミュニティーの活動の調査、分析からいくつかの活動のパターンが抽出された。そのうちのひとつを以下に例示する(図4-2)。
“人がお客さんや友人と話を始めるときにはお互いに関係のある話題。興味のある話題を共有して話をし始める”
以上の活動の要素から”人がお客さんや友人と話を始めるときにはお互いに関係のある話題、興味のある話題を共有して話をし始める”という活動のパターンが抽出された。
4.3. 異なる活動の比較
家族というコミュニティーの活動の中で行われている活動の中から得られた”家族とゲストがコミュニケーションをとる”という活動と、町内会という活動の中から抽出された”「おやじの会ー男の料理教室かつおのさぱき方」での参加者同士がコミュニケーションをとる”という町内会て行われた活動と、家族というコミュニティーの中で行われた活動という異なった2つの比較を行った。
比較から”コミュニケーションを円滑にはかるときにお互いに開係している話題をきっかけにコミュニケーションをはかる”という共通する活動のパターンが抽出された(図4-3)。
5. 考察と結論
5.1. 町内会というコミュニティーに於ける活動の共通性
町内会の活動の調査、分析から11の共通する活動の要素が抽出された。
また、山本、山家の研究を分析したところ、趣味ぺージにおいても同様の活動が見られたことから、家族というコミュニティーにおいても共通する活動があるといえる。
5.2. 家族というコミュニティ一に於ける活動の共通性
家族の活動の分析、調査から3つの共通する活動のパターンが抽出された。
5.3. 異なる活動の共通性
町内会というコミュニティー、家族というコミュニティーの活動という2つの異なった活動においても共通する活動パターンが存在することが分かった。
異なる活動同士でも共通する活動があることが分かった。
5.4. APBDのデザイン手法の有効性
APBDのデザイン手法を用いてデザインをしたwebサイトを使って普段からお知らせ情報を作成している方に使用してもらい検証を行ったところ、モニターからよい反応が得られたことから、APBDのデザイン手法は有効であるといえる。
そして、異なる活動同士でも共通する活動デザインパターンへ変換可能な活動の要素が抽出されたことから、異なる活動に於いてもAPBDのデザイン手法でデザインすることでユーザーに真の要求を反映させたデザイン開発が期待できる。