東北地方の大学を対象としたエネルギー消費量に関する調査研究
山舘 和磨
1. 研究の背景と目的
近年、地球温暖化やエネルギー資源の枯渇といった様々な地球規模での環境問題が注目視されており、それに対する社会的關心も日々高くなってきている。この問題の大きな原因の一つは、何と言っても我々の日々の生活エネルギー消費量の増大である。特に、住宅、業務ビル、学校などにおける民生用エネルギー消費は増加の一途をたどっており、エネルギー消費全体の1/4以上を占める結果となっていて、その低減や抑制は急務である。ところで、我々の多くは長期にわたり学校という教育施設を使用している。その建物に関わる環境負荷低減への取り組みはとても重要であり、特に、大規模な設備を有する大学の運用時のエネルギー消費は、設計から廃棄にいたる建物のライフステージに占める割合が高いため、それを低減することの意義は大きいと言える。以上から、本研究では、主として東北地方の大学を対象とし、エネルギー消費量の調査を行い、その実態を把握し、問題点を抽出して、その改善の必要性などについて検討することを目的とする。
2. 研究の方法と内容
2.1. 調査研究の概要
東北地方における中規模大学を対象として、アンケート調査を行い、電気、ガス、石油、水の月別消費量の年間変動について調べ、さらに、年間総エネルギー消費量やエネルギー消費原単位などについても実態を明らかにする。また、地域特性をみるために全国の様々な地域の大学についてもアンケートを行い相互に比較する。
2.2. 調査対象とその概要
東北地方における、30の大学にアンケートを郵送した。そのうち20の大学から回答を得た。この調査の回収率は66.6%であった。アンケートの内容は、大学の規模(敷地面積、校舎面積、在籍者数)と、2005年の電気、石油などの各月別消費量および経費、暖冷房の方式、暖冷房の熱源などについてである。
その後、地域特性を知るために、北海道から九州地方の30の大学にも同様の内容のアンケートを行い、12の大学から回答を得た。この調査の回収率は40.0%であった。
表1に、各大学の概要を示す。
3. 調査結果
3.1. 東北地方の大学における月別エネルギー消費
(1)電気消量量
図1は、2005年1月〜12月の東北地方における各大学の電力消費畳を示したものである。I1とFs4が他よりも大きく、500〜700×10^3kWhの範囲で変動している。この二つはコンピュータ学科で構成される大学で、とくに、F4は他大学が小さくなる夏休み時期に大きくなる特徴が見られる。これは、大学施股をー般へ開放しているためである。I1は校舎面積が最大の大学である。次のグルーブはM4、M2、Fs2、Ak2であり、300〜450×10^3kWhで続いている。最小はAo4であった。このAo4は校舎面積が最小の大学である。
(2)石油消費量
図2は、石油消費量の結果を示したものである。石油を使わないM1とFs4を除くいずれの大学も石油を暖房熱源に使っており、冬に大きく夏に小さな結果となっている。また、一部例外はあるものの、概ね岩手、青森、山形の大学が大きく、宮城、福島の大学は小さい傾向にある。これは外気温の影響であろう。I1とY1が他よりも大きく、夏にも相当量消費しているが、これはコジェネレーションシステムによる暖冷房のためと思われる。他の大学で夏に消費があるものは冷温水発生器の運転によるものである。
(3)ガス消費量
図3は、ガス消費量の結果を示したものである。Ak2とFs4が最大で約90,000㎥と他よりも抜きんでて大きいが、これはこの大学が石油を使わずにガスヒートボンプ(GHP)による冷暖房を行っているからで、冬と夏に二つ山を形成している。GHPを使っているY1とM1が次に続いている。
(4)水消費量
図4は、水消費量の結果を示したものである。医・薬学系の大学の消費量は大きい。以下、Ao3、I2と続くが、校舎面積や人員数との関係はあまり見られず、効果的な節水方法の採用に大きく依存していることがうかがえる。
4. 大学におけるエネルギー消量量とその要因
4.1. 年聞総エネルギー消量量の算出
各エネルギー源の消費量をジュールに換算し、年間の総エネルギー消費量を求めた。換算には、電気は1kWhあたり3.6MJ、A重油は1リットルあたり38.9MJ、都市ガスは13Aとして1㎥あたり46.05MJ、LPGは1㎥あたり100MJを用いた。図5は、調査対象全ての大学の年間総エネルギー消費量を示したものである。いずれも電気、石油、ガスの使用割合は大きく異なるが、寒冷地やコジェネレーションを採用している場合は石油の割合が大きく、GHPを採用していない場合にはガスの割合が小さい傾向が見られた。総エネルギー消擬量の大きい大学は、国立の総合大学である。To、Miであり、それぞれ、250TJ、150TJと、東北地方の私立単科大学の3〜8倍であった。
4.2. 延床面積の影響
図6に、総エネルギー消費量と延床面積の関係を示す。両者には、寄与率が0.78と高い正の相関があり、総エネルギー消費量は延床面積に大きく影響を受けることが判る。ただし、詳細に見れは、同じ床面積でも消費量には大な違いのある場合があり、延床面積の他にも、エネルギー消費量に影響を与える囚子が存在すること推察される。
4.3. エネルギー消費量原単位の算出
年間の総エネルギー消費量を延床面積で除した値を、エネルギー消費量原単位という。これをすべての大学について算出し、図7に示す。床面槽1㎡あたりのエネルギー消費量でみると、Y1、To、Fs4が1,100〜1,300MJ/㎡と大きく、その他は、7大学が600から900MJ/㎡、15大学が300〜600MJ/㎡に分布していた。
4.4. エネルギーコストとの関係
図8は、各大学のエネルギーコストを示したものである。
図5と比べ、エネルギー源の分布では。電気の占める割合が大きくなる傾向があった。
4.5. 各種要因の影響
(1)気象条件の影響
図9、図10にそれぞれ1月の平均外気温、8月の平均外気温とエネルギー消費量原単位との関係を示す。両者は、ばらつきが大きく、明確な傾向を抽出するまでには至らないが、1月の外気温と原単位の間には、弱い負の相関が見られる。これは、外気温が低くなれば暖房量が増えることを示唆するものであろう。
(2)在籍者数の影響
図11は、学生と教職員を合わせた在籍者数とエネルギー単位との関係を示す。ぱらつきが太きく無相関の様
相を呈しているが、約70%の大学が、在籍者数に関わらず400から1,000MJ/㎡に分布しており、これは、人数が多い大学ほどー人あたりの消費量が少なくなる傾向を示すものである。
(3)大学の特性の影響
調査対象の大学は、単科大学から総合大学まで、様々な特性を有している。そこで、それを、文系、理工系、医薬系、総合系と分類し、エネルギー消費量原単位との関係をみた。それを図12に示す。概ね、文系よりも理工系、医薬系の方がエネルギー消費量が多いようである。
4.5. 重回帰分析の試み
ここでは、目的変数を年間総エネルギー消費量とし、説明変数に敷地面積、延床面積、在籍者数、1月の平均外気温、8月の平均外気温をとって、重回帰分析を行った。重相関係数は0.893であった。重回帰式における各説明変数の係数を偏回帰係数というが、単位が異なるため比較ができない。そこで、各変数を標準化して、標準偏回帰係数で説明変数の目的変数に対する影響の大きさを調べた。その結果、最も影響度の大きい因子は延床面積で、以下、8月の外気温、1月の外気温と続くことが判った。本分析については、説明変数の取り方など、更なる吟味が必要である。図13に、重回帰分析から得られた重回帰式によるエネルギー消費量の推定値と、実際の値(実績値)との開係を示す。
5. 結論
東北地方の大学におけるエネルギー消費量を調査し、その実態を明らかにするとともに、他地域の大学との比較を行った。大学におけるエネルギー消費量は、大学の規模、特に延床面積に大きく左右されるが、在籍者数の影響は思いのほか少なかった。また、暖冷房のためのエネルギーにより、気象条件との関係の大きさも示唆されたが、原単位で見てみると、地域の違いは少なく、どの大学も気象条件などに影響されにくいコンセント負荷(電力量)がエネルギー消費量に大きく関わっていることが推察された。
あとがき
本調査に当たり、各大学の担当者の方には忙しい中、大変お世話になりました。記して深甚なる謝意を表する次第です。
参考文献
1)内田洋ー、松本真一、長谷川兼ーほか:秋田県立大学におけるエネルギー消費の実態調査、日本建築学会東北支部研究報告会、2004年6月 2)渡辺浩文、三浦秀ー、須藤論:東北地方における学校建築のエネルギー消費に関する実態調査研究、日本建築学会環境系論文集、第597号2005年11月 3)山舘和磨、石川善美:東北地方の大学を対象としたエネルギー消費量に関する調査、日本建築学会大会、2006年9月 4)石井悦子、沖美帆子、森山正和:神戸大学におけるエネルギー消費の実態調査、日本建築学会、2006年9月