仙台市の住宅に設置された地中熱ヒートポンプシステムの性能評価に関する研究Performance Evaluation of Ground Source Heat Pump System Installed in a Detached Wooden House in Sendai
鎌田 祐次
1 序論
1.研究の背景と目的
日本のエネルギー消費は、3つに分けることができる。運輸部門、民生部門、産業部門である。特に民生部門は、第一次石油ショックが起さた1973年に比べ2007年度では、2.5倍と最も大きく増加している。民生部門のエネルギー消費を抑えることが急務と考えられる。
民生部門は、家庭部門と業務部門がある。家庭部門の内訳は約7割近くが、冷房、暖房、給湯なのである。ヒートポンプを利用した冷房や暖房にし、給湯にもヒートポンプを利用することで大幅なエネルギーの削減が見込めるのである。中でも地中熱を利用したヒートポンプは、外気温の影響を受けないため、1年中安定して熱源として利用することができるのである。
本研究では、地中熱ヒートポンプ(GSHP)3年間の冬期における熱的性能について、実際の住宅に設置したGSHPの実測と、コンピュータシミュレーションによって検討するものである。
1.2研究の方法
地中熱ヒートポンプが設置されている住宅(木造2階建て、延べ床面積226m²)の3年間のデータから電力消費量、採熱・放熱量、暖冷房量を調べ、電力消費量と暖冷房量から成績係数を求める。その成績係数の変化の要因を明らにする。また、地中熱ヒートポンプシステム性能予測プログラム「GroundClub」を用い効果分析を試みる。
2 地中熱交換機と対象住宅の概要
対象住宅には、ボアホール方式の地中熱交換器を持つ地中熱ヒートポンプ(以下、GSHP)が設置されている。地中熱交換器は、住宅の西側外部に5m間隔で打設した深さ40mのボアホール3本を用いて、その中にそれぞれUチューブを挿入し、ヘッダーを介して熱源水を循環させるものである。図2.1に、地中熱交換機と住宅の概要を示す。住宅の暖房は、GSHPから得られる温水を用いたパネル暖房である。冷房もGSHPから得られる冷水を用いたファンコイルユニットによるが、これは居間のみで、その他の部屋はすべて通常のエアコンを用いて冷房している。
表2.1に、GSHPの仕様を示す。冷媒はR410Aであり、暖冷房時の成績係数はそれぞれ3.7,3.2である。また、1次側の熱源水も2次側の温冷水もブラインを用いており、それぞれ、エチレングリコールとプロピレングリコールの40%水溶液となっている。
3 実測結果
3.1 地中温の3年間の変動とGSHPの運転稼働率
図3.1に、2009年から3年間の日平均外気温とボアホール付近の地中温の測定結果を示す。外気温は、概ね、1~2月にかけて–5~5°Cと低くなり、7~8月にかけて20~30°Cと高くなる正弦曲線を示しており、とくに、2010年の7月下旬から8月は前年より日平均値で約5°C高く、この夏が猛暑だったことがうかがえる。冬期についても2010年の方が若干低くなっている。この外気温変動に対して、深さ2mの地中温はピークが2ヶ月ほど遅れる曲線となる。深さ5mと10mの地中温は13~14°Cと一年中ほぼ一定で、年による違いはほとんどなかった。
図3.2は、3年間にわたるGSHPの1日あたりの運転稼働率を日平均外気温との関係でみたものである。暖房運転時は、とくに外気温が5°C以下であれば稼働率はほぼ80%以上で、100%(終日運転)の日が多くなるが、外気温が10°C以上では80~0%までばらつきが大きくなる。
一方、冷房運転時は、全体として外気温が高くなるほど稼働率は大きくなる傾向を見せるものの、ほとんどが50%以下となっている。これは、外気温が下がる夜間の運転停止を含めて、猛暑であった2010年の日中でも運転の発停が頻繁に起こる日が多かったことを示している。
3.2 冬期6日間の各部温度変動および熱量の変動
図3.3に、2009年1月の6日間の地中温度、1次側循環水(熱源水)の往き還り温度および流量の変動を示す。いずれの値も時間平均値である。熱源水流量は、26.5~270/mihでほぼ一定であり、Uチューブ1本当たり約99/min(流速0.3m/s)のブラインが流れていることになる。また、熱源水温度はほぼ1日周期の上下変動を繰り返しているが、これは外気温の影響が大きいと思わ型る。GSHPの蒸発器からの冷放熱を受けた-4~0°Cの熱源水は地中に入り、それより1~3°C高い温度でGSHPに戻ってくる。このときの地中温度は、地中2mでは11°C、地中10mでは13°Cであった。
図3.4は、2次側循環水(温水)の往き還り温度と流量および外気温の変動を示したものである。温水は、各室内に設置してある10台のパネルに51°Cで供給され、各部屋を暖房して43~46°Cで還ってきている。また、流量の方も10~189/mmと変動している。この流量と還り温度は、外気温が高くなると流量が小さく還り温度も高くなっており、明らかに外気温の影響を受けている。このときの室温および暖房パネル表面温度は、図3.5のとおりである。室温は22~26°Cとやや高めで安定しているが、外気温の影響で室温が高くなると温水流量が制御され、パネル表面温度が42°C前後から22°C前後まで急降下していることが見て取れる。
図3.6は、循環水往き還りの温度差と流量からそれぞれのエネルギー量(1次側は地中採熱量、2次側は暖房量)を計算し、電力消費量(GSHP圧縮機と循環ポンプの合計値)の測定値と併せて示したものである。暖房量は、外気温が低いときに最大で8000W以上と大きくなり、外気温が高くなると3700Wまで小さくなる。また、それに合わせて、地中採熱量と電力消費量も上下に変動している。成績係数は約2.6と見積もれる。
3.2 2年間の長期実測結果
図3.7,図3.8に、それぞれ、1次側、2次側の循環水温度と各室室温、および循環水流量の2年間の変動を示す。いずれも日平均値であり、循環水温度は往き還り温度の平均値である。冬期の1次側熱源水は、2009年は、0°C前後、26l/minで推移しているが、2010年は流量の変動が温度に影響を与えて、温度が0°C前後から8°Cまで変化している。一方、2次側温水は、2009年は、47°C、15l/min前後であるが、2010年は1月からほとんどの日が、50°C以上と高くなり、流量も5~15l/minと変化が大きくなっている。温水温度が高いのは、この住宅が見学客用のモデル住宅だからであろう。室温はいずれの年も23~24°Cで、どの部屋も十分暖かい。
夏は、5月頃から1次側の温度が20~25°Cと高くなり、2次側の温度が10~15°Cと低くなる冷房モードとなる。これが10月頃まで続く。しかし、この期間を通じて2次側の循環水流量の働きは大変小さいものであったことが見て取れる。それにもかかわらず、各室温は22~26°Cと冷房されている温度を示しているが、これは、居間以外の各部屋に設置されている通常のエアコンにより、この住宅の冷房負荷が十分まかなわれていたためであろう。
図3.9は、暖冷房量、地中採放熱量、電力消費量と成績係数の2年間の変動をそれぞれ月積算値および月平均値で示したものである。暖房期間は、いずれの年も、11月頃から4月頃までで、11月と4月は端境期となる。暖房量は、外気温の影響を受けて、1月が最大となる凸型の変化を示しており、地中採熱量と電力消費量もそれに追随している。2009年1月でみれば、暖房量は5220kWh、地中採熱量は3040kWh、電力消費量は2070kWhであり、エネルギー保存則もほぼ成立していることが分かる。暖房期は50/min以下で、このGSHPの冷房としてのシステム成績係数(電力消費量には循環ポンプの分も含んでいる)は、2009年は1月(2.5)から4月(2.9)にかけて上昇している。これは妥当である。しかし、2010年は、逆に12月から4月にかけて下降する傾向を示した。しかも成績係数は2.3以下と小さいものであった。これは、2年目ということで地中土壌の熱的能力の劣化も考えられたが、それよりも2次側温水温度が高いことにその原因があるのではないか。
3.4 暖房期における2次側温水温度および1次側熱源水温度と成績係数の関係
前項の考察から、2年間の暖房期間における日平均値を用いて、温水温度および熱源水温度と成績係数の関係を調べてみた。それを、それぞれ、図3.10,図3.11に示す。いずれもばらつきが大きいが、成績係数は、2次側の温水温度が高くなると小さくなる傾向があると言ってよいであろう。これは、過度の暖房は効率を落とすということを示唆している。1次側の熱源水温度の方は、-2.5~10°Cの範囲に2~3の成績係数が集中しており、両者に顕著な関係を見出すのは困難であった。
4 シミュレーションによるGSHPの効果分析
シミュレーションは、実測では分析できない検討項目を計算によって推定しようとするものである。表4.1に、分析の対象としたGSHPの因子と水準を示す。標準タイプを実測対象条件とし、因子と水準を一つずつ変化させたシミュレーションを行った。
図4.1に、ボアホールの長さを変化させたときの成績係数を示す。ボアホールが長くなるほど、ボアホールと地中土壌との伝熱面積が増え、成績係数は上昇する。しかし、その上昇の程度は、長さが長くなるほど減少し、長さが4倍になっても成績係数の伸びは1.4倍に留まっている。なお、図中のシステム成績係数とは、GSHP本体以外(循環水ポンプなど)に必要となる電力消費量も含めた値である。図4.2は、2次側温水温度を変化させたときの結果である。温水温度が高くなるほど成績係数は小さくなり、過度の暖房は効率を下げるという事が明らかになった。温水による輻射暖房を考える場合は、2次側温度を抑える事が望ましいと言える。
4. 結論
3年間にわたるGSHPのデータの調査をした結果、冬季における成績係数の熱的性能について重要な見解を得ることができた。それは、2次側温水温度と成績係数には密接な関係があるということである。1側熱源水と成績係数にも同様な結果が見られると期待したが、顕著な関係は見出すことはできなかった。
また、日本ではGSHPの需要が少なく未だに高価なシステムである。しかし、コストだけで考えるのではなく環境性や快適性など多角的に見ることが大切だと考える。
あとがき
本実測を行うに当たっては、石川先生や石川研究室の皆さん、スモリエ業(株)、森永エンジニアリング(株)東北営業所、サンポット(株)、東北電力(株)お客様提案部の各位より多大なご支援とご協力を頂いた。ここに記して深甚なる謝意を表する次第です。
参考文献
1)石川善美:仙台市の住宅に設置された地中熱ヒートポンプシステムの性能評価に関する実測、日本建築学会大会、2009年8月
2)石川善美:同その2、日本建築学会大会、2010年9月
3)石川善美:仙台地域における住宅用地中熱ヒートポンプシステムの適用可能性に関する実測、空気調和・衛生工学会大会、2010年9月
4)鎌田祐次、石川善美:仙台市の住宅に設置された地中熱ヒートポンプシステムの性能評価に関する実測その3、日本建築学会大会、2011年8月
5)北海道大学地中熱利用システムエ学講座:地中熱ヒートポンプシステム、オーム社、2007年.