分散型コミュニティにおける議論の支援方法の研究-非同期非対面コミュニケーションにおける通知機能の有効性の研究-
阿部 卓弥
背景 – 先行研究で開発されたツール“Diverge”
先行研究では、時間も場所も共有しない、インターネット上の文字を使ったコミュニケーションの問題点を解決するために、「非同期非対面議論ツール“Diverge”」が開発された。Divergeは、「付箋紙」をメタファーにしたWebアプリケーションである。「テーマフセン」に話したい話題を書き、意見を「フセン」に書く。また、複数の意見に投票してもらいたい場合は、「アンケート」を使用する。他の参加者の意見を支持したい場合は、「アノテーション(GOOD!)」を付けることができる。
Divergeの課題
Divergeの開発によって意見同士の関係性の明示化と意思表明のための支援を行う事ができたが、新たな問題も発生した。それが、「フィードバックの問題」である。これは、他の議論への参加者の発言(新たな投稿)が通知されないために、情報の更新に気付きにくいと言う問題である。このため、以下の問題があった。a)継続的な情報の発信や議論がほぼ見られない。b)Diverge上で発言しても、他のメンバーへの周知ができていない。c)もしくは、直接メンバーに伝えなければ、ユーザーが情報に気付きにくい。
通知機能“DivergeNotification”の開発
この「フィードバックの問題」を解決するために、本研究で開発したのが、「通知機能“DivergeNotification”」(図2)である。主な機能は以下の2つである。
【通知:ポップアップウィンドウ(図3)】
これまでで、最も問題だった「他のユーザーの発言に気付かない」を解決するための工夫点である。アプリケーションを立ち上げている間は、5分ごとにDivergeに追加された情報を確認し、最新情報がある場合は、ポップアップウィンドウで更新情報が表示される。
【時系列表示】
Diverge上で投稿された内容を各ボード(Diverge上の議論を行う場)ごとに、最新の投稿が一番上に表示されるようになっている。これによって、ログイン後の経過時間によっては通知が受け取れない場合でも、以前の状態から更新された内容がすぐに分かるようになっている。
検証実験
実際に開発したツールを使い、Diverge上で議論を行った。被験者は本学XDコース3年生6名である。本研究では比較実験を行うために、Divergenotificationがある状態と無い状態で2週間ずつ議論を行って貰った。
検証方法
各2週間の使用後に行ったインタビューと、期間中の議論の経過、Divergeの使用状況から分析を行った。
検証結果
検証実験の結果、DivergeNotificationがない状態(図4)と、ある状態(図5)では、ある状態の方が投稿、ログイン、GOOD!の総数が増加する傾向が見られた。また、DivergeNotificationを使用した方に、継続的な情報発信、コミュニケーションが見られた。さらに、DivergeNotificationを使用した方が、各発言に対する他の議論の参加者からの反応が速くなっているという結果も得られた。
結論
インターネットを利用した文字ベースのコミュニケーションにおいては、以下の要素が重要であることが分かった。
a)非同期非対面議論、コミュニケーションにおいて、適切なフィードバックと高いレスポンス性を持った通知機能。
b)即時的(十数分〜1時間以内)なフィードバックとレスポンスをユーザーに与えること。→これによって、非同期非対面の環境で のコミュニケーションは、連続性、継 続性、関連性を持った交流になること ができる。
c)コミュニティ内で誰がどの様な活動を行ったか、全体で確認できる工夫。 ex.)情報の1次元化、時系列表示