仙台地方における木製建具の近代史と継承に関する研究A Study on Modern History and Traditional Succession of Wooden Fittings in Houses around of Sendai
尾形 章
第 1 章 序論
1.1 はじめに
伝統的な日本の住まいは、一般的に開放性や連続性にその特徴があるとされる。ゆえに、内外や空間同士をつなぎ、あるいは仕切ることができる建具の存在は重要であり、建築そのものの特性がもっとも良く反映される部位の一つといえる。一方、建具と深く関わるものに家具があり、これはともに「指物技術」を応用して造られるという共通点を持っている。これまで伝統的な建具については、西日本の事例を中心に様々な著書・論文があり、また家具については、小泉和子らが通史的内容を明らかにしてきているが、それらの中核は近世建築史であった。一方、建具そのものは近現代に大きな変革を遂げ、特にいわゆるアルミサッシが普及して以降は、伝統的な建具を「木製建具」と呼称するようになる。しかし、伝統的な木製建具と、アルミサッシに類する現代高性能建具・枠材との間にはやや断絶があり、「木製サッシ」といわれる中間的な存在があるものの、その技術は北欧由来で、地方の木製建具生産者とは結びついていない。
仙台地方では、例えば仙台箪笥が有名であり、小泉氏(前述)は近代前期(明治−昭和初期)を中心に、その歴史を解明してきているが、当地方における同時代の建具はというと、判然としない。
他方、近年は高断熱、高気密化といった開口部に求められる性能が厳しくなることもあって、遺構そのものの実地調査が急務となっており、ましてや新規外部建具に伝統的意匠を期待することはほぼ困難となりつつある。今後は、伝統的な建具の生産は内部建具に限定されいくことが予測される。こうした過渡期にあって日本建築・空間意匠の中核をなしてきた木製建具と言う存在をどのように継承していけるのか、これを支える地域技術者の現場に近接して考える最後の好機を捉える事もできる。
そこで本研究は、仙台地方における住まいの木製建具の近代史を明らかにし、その継承を考察するための基盤的知見を得ることを目的とする。
具体的には、文献調査のほか、当地方の遺産住宅の実地調査、これらの修復に関わる伝統職人・業者へのヒヤリング、そして修復現場の取材を通して、当地方の木製建具技術の近代史と現状を明らかにしていく。また、これらをもとに、木製建具に関わる伝統技術の継承について考察を深め持論を述べる。
1.2 研究方法と論文の構成
本研究は、以下のとおり進めた(図 101)。
[ 第 2 章 ] 住宅と木製建具の通史概略
既往研究をもとに建具・建具職人の歴史に関する著書・論文・資料を通読し、本研究で検討する建具の位置づけを明らかにして、仙台地方の木製建具の近代史における仮説を提示する。
[ 第 3 章 ] 仙台地方の遺産住宅と外部建具の近代変容
第 2 章を踏まえ、仙台地方の近代遺産住宅の聞き取り調査および建具の観察を行い、前章の仮説に関する実証を行う。
[ 第 4 章 ] 木製建具の製作に関わる職人・業界の現状
第 2 章を踏まえ、木製建具の製作を生業としている建具業者に生産環境・生産内容等を聞き取り、建具生産の状況と建具職人の傾向を明らかにする。
[ 第 5 章 ] 遺産住宅の再生修復事例における建具工事の実態
第 3 章・第 4 章を踏まえながら、修復される遺産住宅の現場において、どのように伝統技術が用いられ、あるいは代替されるのかを観察分析し、木製建具及び技術の継承について考察を行う。
図 101 論文の構成と研究方法