単身者の職住スタイルとシェア居住に関する研究 ─ 仙台におけるコ・アトリエ付きシェアハウスの創出実践を通して─A Study on Room Share Living with a Viewpoint of Life and Work Style of Single People -With a Project of Renovation from a Floor of Used Offi ce Building to a Shared House with Co-atelier, SENDAI-
平山 雄磨
本研究では、人との繋がりを創出しうるシェア居住の現状と将来像を探る事を目指して、特に職住の一致や近接、連携に着目したシェア居住の在り方・運営方法について文献や実地調査及びデザイン実践を通してまとまった知見を得る事を目的とする。
まず文献調査として、既往研究もとにシェアハウスやその運営方法に関する著書・論文・資料を通読し、本研究におけるシェア居住の定義を明らかにし、「シェアオフィス」「コワーキングスペース」といったワーキングシェアについても既往研究、事例を整理した(第2章)。
仙台地方の実地調査では、仙台市内で展開されているシェア居住運営者にヒアリングを行い、空間や運営の傾向と懸念される課題を抽出した。仙台の事例の多くは、留学生や短期居住者を対象にしたゲストハウスタイプのシェア居住であったが、運営開始時期が近年になるにつれ、空間的な部分だけでなくライフスタイルまでも付加価値として着目してい
る事例がみられる。この要因のひとつとして、運営者がシェア運営において特に運営面に今後の課題と可能性を見出していることが明ら
かになった(第3章)。
実地調査で得た結果をより多面的な視野で捉えるとともに、仙台においてのシェア居住のニーズや職住一致の可能性を抽出するべく、文献・既往研究を再度整理した。仙台において、ライフスタイルに着目したシェア居住は、何れも起業や人材育成等、ワーキングをコンセプトとして運営を行っている事例が多い。特に、共用空間でのイベントや使用法はワーキングシェアのように地域を包括した展開がなされていると同時に、外部の人物や起業が介在して専門知識や技術を教授する場としても活用されている事が明らかになった(第4章)。これら職住一致の可能性を更に検証するべく、女性クリエイターを対象としたコ・アトリエ付きシェア居住創出プロジェクト“JAM:Johzenji Atelier Meets”に著者が参画して計画及び実行にあたった(第5章)。
以上をまとめ、結論を述べるとともに(第6章)、デザイン実践で製作した活動資料等を資料編に添えた。
第1章 はじめに
1-1.研究の背景
現在の住まいと住まい方はコミュニティの希薄化が問題になってきている。シェア居住に代表される、人との繋がりに価値を見出す住まい方は、とくに単身者にとって、今後多様化する住まい方に対応した一つのモデルになりうると考えられる。既に首都圏では実践事例が多様に展開されており、これらに着目した研究は、ハウジング(住宅供給)や不動産的視点について検討したものから居住者像に着目したものまで、様々報告されている。
一方、ノマドワーカーのような新しい働き方についても報じられているが、両者を統合的に扱った研究や実践例は管見されない。単身者の働き方を含めたライフスタイルを統合的に捉える研究が必要である。
他方、所属研究室では地方都市仙台の中心部の一角に職住一致型のシェアハウスを創出する中古ビルのリノベーションプロジェクトに参画しており、筆者はこれら中心的に関わっている事から、本題目を実物を通して検証、考察する実在環境を有している。
1-2.本研究の目的
本研究は、人との繋がりを創出しうるシェア居住と職住スタイルの現状と将来像を探ることを目指す。そこで、シェア居住やコワーキングスペースの在り方、運営方法について、文献・実地調査及びデザイン実践を通してまとまった知見を得ることを第一の目的とする。また、職住一致型の工房付シェアハウスの創出プロジェクトを通して、その可能性と課題を抽出することを、副次的な目的とする。
1-3.論文の構成
まず、既往研究をもとに本研究におけるシェアハウス、コワーキングスペースの概念整理を行う (第2章)。つづいて仙台市内のシェア、コワーキングに関する事例調査を行い、特に居住運営者にヒアリング調査等を行って、その特徴を明らかにする (第3章)。そのうえで、第2章の文献と第3章の事例・調査結果を整理し、職住一致型シェア居住の在り方を複合的に考察する(第4章)。他方、第4章で整理した結果・情報をふまえながら実際にシェアハウスの空間計画から運営、企画まで実践を行い(第5章)、以上、文献調査およびデザイン実践で得られた結果を整理し、結論を述べる(第6章)。
第2章 既往研究にみるシェア居住とコワーキングスペース
2-1.シェア居住普及と単身者のライフスタイル
シェア居住は、賃貸受託史上の終着点ともいえる単身生活者への住宅供給が民間ベースで進み、リノベーションと言われる安価な手法でシェアハウスが広まった。その普及率は2005年意向を目途に急激な普及率をみせている1) 2)。この要因の一つに単身者の増加や生活の多様化が挙げられている。単身者のライフスタイルは、個人の自由度を重要視する一方、世代や性別職住の在り方、趣味等をとおしてコミュニケーションの可能性を含んでおり、これがコモン性を生む因子となりうると考えられる。
2-2.シェアハウスの増加傾向
三菱UFCリサーチ&コンサルティングのデータ1)によるとシェア居住は日本全国で2005年までは21件以下であった。しかし翌年以降、急激に増加を続け2013年3月末時点では累計給付物件数は1,400物件、約19,000戸まで増加している。また同年以降、シェア居住事業に参入する事業者も急増しており、2013年では394社にまで及んでいる。
その背景には①単身者の増加・ライフスタイルの多様化、②住宅ストック対策③インターネット普及による希望者のインフラ解消等が影響している事が示唆されている3)。
2-3. 単身者の住生活の現状と住要求
首都圏を対象にした鈴木らの研究4)では、単身世帯の年齢層は30歳以上の中高年が半数を占めている一方で、24歳以下の若年層も多いという。また、収入層の多くは100~300万円に集中していることから一般世帯と比較すると低収入層に位置する。単身世帯と複数世帯で大きく異なる点として、単身では「教養・趣味」「娯楽」、複数では「将来の蓄え」「子供の教育」が多い。
加えて、「コミュニティ意識」、「社会参加の意識」が複数の場合は高いのに対して単身はかなり低いとされているが、男女別で見てみると男性よりも女性の方が「コミュニティの意識」「住宅の安全性」が高い。
2-4.シェア居住の2つの運営管理方法
シェア居住とは一つの家屋または居室を複数人で共用する賃貸住宅で、居間、台所、風呂場、トイレといった空間を共用する。他にも「ルームシェア」「ホームシェア」等、呼び名は様々あるが、これらはその管理・運営法によって2つに分類されている2)(図1)。
2-5.コワーキングスペースについて
コワーキングスペースの空間構成は大きく分けてオープン・ブース・個室の3つからなっている(表1)。個人が占有する空間になるにつれ、コミュ二ケーション不足の問題が挙げられている5)。利用者はその利用頻度によってライトユーザーとヘビーユーザーの2つに分類されている5)後者は、「職」に高い意識・関心を持ち、コワーキングスペース運営者、使用者共に密接な関係を築いている事が明らかになっている。
第3章 シェア居住等の実態調査
3-1.仙台のシェアハウス運営実態
仙台市内には首都圏と比較すると事例数は少なく、運営稼働が比較的新しい物件が多いが、居住者と運営者がシェア居住に対して相互に生活の付加価値に着目している事が示唆された。また、居住者の中には運営を積極的に担う人物がおり、運営者と協力しながら運営を行い、管理人を介在させる運営よりも円滑に運営ができるという報告もなされた。
調査は既往研究を参考にヒアリングシートを作成し、運営者と居住者に平成28年7月から11月の期間までヒアリングを行った。調査結果は調査シートにまとめた(表2参照)。
(2)選定対象・ヒアリング項目
ヒアリング項目は大きくわけて6 項目である。事例調査より著者が知る限りでは宮城県には平成28年度時点)。実地調査ではそのうちの仙台市内で運営されている6社のシェア居住の7件にヒアリングを行った。
3-2.仙台のシェア居住事例調査結果
運営者と居住者は何よりも「運営」に着目している。運営者の場合、事例の中には設備や共用空間を充実させるだけでなく、運営の方法等を重要視している。また、地域性を考慮したシェア居住の運営や在り方に懸念を抱く運営者が多い事が明らかとなった。一方、居住者の場合、とくに事例で共通して見られたのが居住者による運営介在である。事例H1、H3、H6では家賃の値引き等を条件にシェア居住の管理、運営、清掃等を一括して請け負うケースもみられた。
このことは、居住者のシェア居住に対する意識が生活の質を含めた住要求であること事が示唆され、事実、昨今では「家守」と言われる家屋と運営を管理する事業体が出現してきたことからもうかがえる6)。
3-3.仙台市のコワーキングスペースの事例調査
仙台市内には平成28年度現在で稼働しているコワーキングスペースは8件確認されており、基本的に空間構成・特徴は事例と酷似している。
仙台の事例では基本的に新築は少なく、リノベーションを行ったものがほとんどである。オープンのみ等やワーキングスペースが小規模なものは本棚を建具代わりに使用してバックヤードスペースを設けたる等の空間的工夫がなされていた。またオープン、ブース、個室以外に休憩スペースが設けられており、サロン空間として使用されている他、外部とワーキングスペースの中間領域として設けられている傾向があった。
第4章 単身者職住空間の共通点と課題
4-1.単身者職住空間・運営要素の共通点
実地調査より、シェア居住とコワーキングスペースそれぞれを3つのタイプに分類し、比較した結果、空間の要素、使用方、運営等にいくつかの類似点がみられた(表3)。シェア居住の場合、共用空間にて、ワーキングに即した使用法がなされている事例がみられる。例えば事例H1では、共用空間を地域住民を対象とした勉強会やセミナー等が開催されている。また、H2ではシェア居住のコンセプトに職をテーマとしている等、事例Eでは居住者がワーキングスペースとして空間を使用していたケースも報告されている。一方、コワーキングスペースの場合、前述した事例W6,W8でみられたシェア居住のように、居住空間に加え、共同キッチン等の生活環境に留意された設備がみられた。
4-2.運営・空間の多様性からみる職住の可能性
シェア居住とコーキングスペースは各々が多様な運営要素を含んでおり、特に働くことに着目した価値観の捉え方や空間の工夫は、ワーク環境に留意したコワーキングスペースのみならず、シェア居住にも影響を及ぼしていることが伺われる。
しかし、空間的な共通点や運営要素が多々みられる両者を統合的に扱った、ビジネススタイルや事業体は仙台では管見されていないことから、職住空間の課題と同時にその可能性が示唆される。
実践
5-1.目的と概要
本プロジェクト(JAM:Johzenji Atelier Meets)は、東北各地で将来の産業創出の礎となるものづくりを志す人物が、自身の創作力を伸ばし、コミュニティ・ネットワークを形成して企業することを支援するため、東北の結節点として情報が集まる仙台市街の立地性を活かし、創作と居住が共存する場を安価に提供する事を目的とするものである。このJAMは職住一致型のシェア居住であり、前述した企業を目指す若者を対象としたクリエイター専用のシェアハウスを現在企画した(図3)。
5-2.体制・プロセス
本プロジェクトの発端はS設計事務所のリノベーション物件であるが、その後、所属研究室に相談があり、平成27年9月から平成29年度3月まで、著者と設計事務所社員1名が主体的に参画して運営、広報活動、空間計画、イベントの開催等を行った。対象となる物件は5階建のビルでリノベーションした範囲は2階部分にあたる(約50坪)。
5-3.企画コンセプトとリノベーション実態
当社の予定では、居住だけに着目して計画を行っていたが、居住者のライフスタイル・職業
が暮らしの中に活かせるように共用空間使用の多様性を重視した。個室空間では扉開閉により、生活空間を大きくする事やプライベート空間に切り替えられるように工夫をした。
5-4.活用
平成28年9月16日より、女性を対象としたワークショップをJAMブース内で開催した。運営参加者は2名の女性の個人事業者で、それぞれがフラワーショップ・雑貨喫茶点を経営している。このワークワークショップでは著者と設計事務所職員1名とでワークショップ実行員会を設け、空間計画、企画、広報活動、実行にあたった。ワークショップでは9名の女性参加者を獲得することができた(図5)。 また10月からワーキングテナントとして貸し出しを行った結果、首都圏を中心とした企業や団体の使用者も獲得することができた。
6章 結論
既往研究整理(第2章)では、シェア居住は運営側から見て2分類されることが明らかとなり、賃貸住宅史上の終着点ともいえる単身者のへの住宅供給が民間ベースですすみ、リノベーションと言われる安価な手法と様々な社会背景により急激な普及をみせた。また、コワーキングスペースではゾーニングとユーザーの関係から空間特質を整理できると考えらえた。
実地調査(第3章)では、仙台の事例を調査した結果、事例数はすくないが11件の報告例があり(平成28年度時点)、既往研究で前述した現象は地方にも及んでいる。特に、実地調査では運営体に介在する人物や、運営者が今後の課題として、地域にあった運営法の懸念をしていることが明らかとなり、運営法や地方のシェア居住の在り方を、今後はとくに捜索する重要性が伺われた。既往研究や事例調査をさらに整理すると、仙台のシェア居住とコワーキングスペースは運営法や経営方針に様々なタイプに分類されることが明らかとなった。また、両者には各空間の住むことや働くことに留意された空間要素が含まれており、要因として、各空間の働きをより効率化させる一つの手法として、ユーティリティースペース(有用空間)の重要性が考えられた(第4章)。
JAMプロジェクトの実践(第5章)では、とくにこれに留意した職と住空間を内包した共用空間、居室の計画や運営展開の実践にあたった。その結果、ワークショップやイベントを通じて利用者からは共用空間と居室の関係性を明確にする点やプライバシー問題に懸念する報告がみられた。加えて、ワーキングテンナントとして貸し出しを行った結果、利用者の多くが県外の企業に集中していたことから、情報伝達や発信法に課題がある可能性が考えられた。これに関係してシェア居住には情報を発信する人物や運営計画に介在する人物の必要性も明らかとなり、職住一致型のシェア居住においてはその人物の人脈やキャラクターが大きく影響を及ぼすと言える(第6章)。